大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和39年(ラ)39号 決定

抗告人 島田雅子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

本件記録によると、福島地方裁判所は、同庁昭和三三年(レ)第六一号土地所有権移転登記手続請求控訴事件の昭和三六年一月一一日午前一〇時の口頭弁論期日に成立した和解調書につき、控訴人渡辺正男代理人弁護士綱沢利平の申立にもとづき、右和解調書の和解条項第一項中「福島市土湯温泉町字休場一番の五山林一反二畝一五歩及び同所一番の六山林九畝歩」とあるを「福島市土湯温泉町字休場一番の五、一、山林一反二畝一五歩(但し土地台帳上の表示同所同番の五山林一反八畝二二歩)同所(同町とあるは誤記と認める。)一番の六、一、山林九畝歩(但し土地台帳上の表示同所同番の六山林一反一九歩)と更正する決定をなしたことが明らかである。

ところで本件記録を調査すると、本件和解成立当時土地台帳謄本等が提出されておらず、和解調書の記載は土地登記簿謄本にもとづき記載されたところ、前記各山林については土地台帳の地積と土地登記簿の地積とが一致せず、昭和三五年法律第一四号(不動産登記法の一部を改正する法律、同年四月一日施行)付則第二条、同年法務省令第一〇号付則第二条により、改正前の不動産登記法の規定による土地登記用紙の表題部を改正後の不動産登記法の規定による登記用紙の表題部に改製するについては、旧表題部に代えて新表題部を登記簿に編綴してすることとなつたが、この場合新表題部を作成するには、土地台帳に登録されている土地については、土地台帳にもとづき記載することと定められ昭和三六年一月二六日法務省告示第一七八号をもつて、福島地方法務局における右規定による登記用紙の表題部の改製及び新設を完了すべき期日を同年二月二〇日と指定された結果、和解成立後において、前記一番の五山林一反二畝一五歩の土地登記簿の表頭部は、土地合帳にもとづき同番の五山林一反八畝二二歩と、前記一番の六山林九畝歩の土地登記簿の表題部は、土地台帳にもとづき同番の六山林一反一九歩とそれぞれ表示されるに至り、和解調書の表示は土地登記簿の表示と一致しないことになつたことが明らかであり、かかる場合和解調書の記載それ自体に誤謬はないけれども、民事訴訟法第一九四条を準用して、和解成立当時における土地台帳上の地積を補充し更正することができるものと解することが相当であるから、福島地方裁判所が前示のごとく和解調書を更正したことは相当である。

抗告人は、渡辺正男が本件和解上の権利を河野二男に譲渡した旨主張するが、かかる事実を認め得る証拠はない。かりに渡辺正男が河野二男に対し本件和解上の権利(抗告人に対する前記二筆の山林についての二分の一の持分につき所有権移転登記手続請求権)を譲渡したものとしても、その履行をするために、和解調書の更正申立をすることはなんら妨げがなく、抗告人の主張は理由がない。

よつて、民事訴訟法第四一四条・第三八四条・第九五条・第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村美佐男 羽染徳次 野村喜芳)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し、本件申立を却下する旨の決定を求める。

抗告の理由

(一) 渡辺正男は河野二男に対し本件和解上の権利を譲渡し、所有権はもちろんなんらの権利を有しないものであるから本件更正申立権はない。

(二) 本件和解の目的たる不動産は、原決定により更正された不動産ではなく、これと異なるものである。本件和解の目的たる不動産と同番地のものが他にあるのであつて、一見して同一物件のようにみられるがその実異なるものである。

したがつて、原和解調書の物件の表示に誤りはなく、しかも和解の原案は渡辺正男が提出したもので、抗告人はこれに同意したにすぎないものであり、現物は見たこともないものである。

(三) 渡辺正男は目下大病で本件申立をするとは考えられない。

(四) 理由並びに証拠はおつて提出する。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例